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僕たちはこの方法しか知らない(BL短編集)
第2章 最後のチャンス
啓斗が一人で最後に向かいそうな場所を低性能な脳をフル活用して考える。ずっと見ていたから知っている。啓斗が一人になりたいときに向かうスポットがいくつかあること。ただ、外した場合すれ違いで会えなくなるかもしれない。
とにかく迷ってるヒマはなかった。一つ目がハズレでも二つ目まで行ける時間があればいい。そのためにはできる限り急ぐしかない。
抱えている荷物がうっとうしかった。ポケットでは携帯がピロピロなっている。きっとさっき撮った写真が嵐のように送られているに違いない。そんなものにかまっている時間はない。終わりは刻一刻と迫っている。
「はあ、はあ、はあ……」
和幸は手に持っていた荷物をその場に放った。両手を膝につき校内を走り回って乱れた呼吸を整えようとする。――いや、流れる汗と一緒に零れそうな涙を堪えているのかもしれない。
啓斗は見つからなかった。
屋上へ続く階段の踊り場、理科室がある廊下の突き当たりにある窓、唯一ステンドグラスの飾られた北階段、どこにもその姿は見当たらなかった。そして最後に来たのが図書室の前の廊下。和幸が苦手な本の匂いと、窓から差し込む西日が胸を鋭く突き刺す。
――ああ、やっぱりダメだった。
もう心当たりのある場所はなかったし、時間を考えても帰宅してしまった可能性が高い。
「は、ハハハ……、なんでもっと早く動かなかったんだろ」
いまさらだとはわかっていても、過去の自分に当たるしかできなかった。時間を確認しようとポケットに手を突っ込み携帯を取り出せば、先ほどのメールラッシュと自分が写真を撮りまくったせいで電源はすでに落ちていた。
すべてに見放された。
最後の最後に、今までチャンスをふいにしてきた自分へ罰が与えられた。
この胸を刺す強い西日も、まもなく消えてしまうだろう。そうしたら和幸はどうしたらいいのかわからなかった。泣けばいいのか、笑えばいいのか、怒ればいいのか。