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僕たちはこの方法しか知らない(BL短編集)
第2章 最後のチャンス
「山村くん」
――え?
西日を眺めていた和幸の目には、声をかけてきた人物の輪郭しか映らない。ただ、その声を聞き間違えるはずがなかった。そして次第に目が慣れ立っていた人物に和幸を目を見開いた。
「あ、ごめん、もしかして邪魔だったかな」
一人で夕日を眺め黄昏ていたと勘違いされそうになった和幸は思いの外大きな声で言った。
「行かないで!」
自分でも声の大きさと選んだ言葉に驚いた。ただ、それが本心なんだとも感じた。ずっと眺めるだけで我慢していた、仲良くなれなくてもいいからせめて嫌われたくないと堪えてきた、その中にあった本心。
啓斗は少し驚いたように眉を上げたが、ゆっくりと和幸の方へ歩いてきた。
途端に和幸は逃げたくなった。所詮生粋のチキンなんだと思った。ここには今、和幸と啓斗しかいない。初めての二人きり。ずっと望んでいて、それでいて恐れていた環境。心臓の音がうるさい。
「綺麗な夕日だね」
たまたまクラスメートを見つけたから世間話をする口調で、啓斗は言った。本当は自分を探して駆けずり回っている和幸を知っていた。そしていずれこの場所に来ることも。それを死角になる場所で待っていたなんて言わない。
「え、あ、うん……」
切り出して来いよ。啓斗は思った。お前に言わせるために今までずっと待っててやったんだろうが。
「な、なんで、いーんちょがここに?」
「ん? ここは僕のお気に入りの場所だからね。……山村くんこそ、どうしてここに?」
答えに詰まることをわかった上で、啓斗は聞いた。いつも通り、みんなが知ってる優等生のスタイルを崩さないままで。
案の定、和幸は戸惑う。まさか啓斗を探して校内を走り回ってましたなんて言えないし、普段図書室に通うようなタイプでもない。視線をきょろきょろさせて、困った顔をする以外になにもできなかった。
啓斗はバレないようにクスッと笑う。
「まあ、一人になりたかったとか、そんな感じかな」
困っている和幸も可愛いが、そのままでは話が先に進まない。適当に助け舟を出してやる。さあ、さっさと乗って来い。