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僕たちはこの方法しか知らない(BL短編集)
第2章 最後のチャンス
「そ、そんなとこかな。みんなでワイワイも楽しいけどちょっと疲れちゃってさ……」
ヘヘッと笑って頭を掻く。こんなに近くで啓斗と並んで立ったことはなく、どうしても顔を上げることができなかった。目を合わせたらすべてを知られてしまいそうで。
ふと、和幸の視界に投げ捨てられたままの卒業アルバムが映る。そこにはまだ啓斗のコメントがない。
「あ、あのさ! 卒アルの寄せ書き、か、書いてもらえるかな? いーんちょでコンプリートなんだよね」
「いいよ。貸して」
和幸は慌ててアルバムを拾ってついていた埃を払うと、ページを開いて渡した。
「すごいな、これ。ほとんど書くところないじゃん」
啓斗は苦笑した。男女ともにモテることは知っていたが、和幸のアルバムはほとんどがすでに埋め尽くされていた。
「あ、そうだった、えと、じゃあこっちに」
もう一つページを捲る。寄せ書きが最後のページなので、そこは空白の場所だった。
誰もまだ触れていない、まっさらなページ。啓斗はそこに和幸本人を連想した。まっすぐでまっさらで、素直で正直で、みんなが嫌がることも率先してやるもんだから和幸を慕う友人たちもそれに加わらざる終えなくなる。そして気がつけば、クラス全体を動かしてしまうムードメーカー。
啓斗はメッセージを書くとアルバムを閉じて和幸に返した。それを大事そうに胸に抱える和幸。
ばかだな、全部顔に出てるのに。ずっとそう思っていた。だからこそ、和幸が行動を起こすのを待っていたのに、思っていた以上に彼は奥手だった。啓斗自身も、まさか卒業式まで待つ結果になるとも思っていなかったし、おまけに帰るフリまでしなくてはならないなんて。
啓斗は自嘲ぎみに笑った。さすがに自分が行動を起こせばよかった、と。
「山村くん、写真撮ろうよ。記念写真」
「う、ん。いいよ」
普段のムードメーカーはどこへやら、緊張のあまり和幸は片言になっていた。
――さあ、最高の記念写真を撮ろうか。