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僕たちはこの方法しか知らない(BL短編集)
第1章 Like A Cat

ヤツが恋人の意味を知らないことをわかったうえで言った。知っていたら恥ずかしくて言えない。いつの日か、意味を理解してくれればいい。そしてそのとき、ヤツの気持ちで判断してくれればいい。

「ほら。ラーメン伸びるから」

ヤツの瞳にうっすらたまった涙を乱暴にぬぐい、俺は背中を押した。


ヤツの事情はなんだろう。おそらく本人に聞いても理解していないだろう。俺の頭の中ではなんとなく想像がついているが、それはあまりにも非現実的で、いままでごく普通の人生を歩んできた俺には納得がいかなかった。ただ、俺とは真逆の普通ではない人生をこの年で歩まされていたんだろうなということは確かだ。

服を着る習慣がない。箸の使い方を知らない。読み書きができない。食事を餌と言う。――この年でアブノーマルなセックスでないとイけない。

こんなにヤツの人生を壊した野郎は一体だれなのか。今目の前にいたらブチ殺してやりたい。

始めは同情や善意だったものが、俺の中ではすでに変わっていた。俺はヤツに普通を教え、一緒に残りの長い人生を楽しく暮らしたいと思っていた。セックスだって優しくしてやりたい。……たまには乱暴なのもいいが。



「おい、そろそろ寝るぞ」

「あ、はい」

寝室から呼びかけるとパタパタとヤツは駆けてきた。寝室までくると傍らで俺がなんとか着せた服をすべて脱ぎだす。

「おい、そういう寝るじゃねーよ」

「えっ」

期待してたのを裏切られた、というよりも、どういう意味かわからない、といった声だった。ヤツにとっては俺に呼ばれるイコール性処理という図式になっている。そしてすでに、ヤツの中では求められないと捨てられるのではという恐怖にもなっている。

「ったく、そんな不安そうな顔すんな」

ベッドに横たわっていた俺は腕を広げてヤツを誘う。ヤツはためらいながらゆっくり片手を伸ばしてきたので、その腕を掴んで乱暴に抱き込んだ。

「わふっ! え、あ、ちょっ」

俺は抱えたヤツを放さないように捕まえたまま、片手でわき腹をくすぐってやった。

「やあ! あひっ、ひゃう、やだあっ」

腕の中で逃げようと必死にもがくが、これだけ体格差があれば逃げられるはずもなく俺にされるがままになっている。涙を浮かべて頬を染めて息も絶え絶えに震えていた。

かわいくて仕方がない。
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