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Only you……番外編
第6章 目眩
冷や汗が流れてきた。拳を強く握り締めたので、掌には爪のあとがついていることだろう。
帰れとぐいぐい肩を押されて、私はもう成す術がなかった。――というよりは、成す体力がなかった。
――く、る……しい……っ。
シャツの上から胸を強く掴み、手にしていた書類がバサバサとその場に散っていった。透真の私を押す手の力が急に弱まり、支えを失った体は勝手に床へと崩れていった。
「ぐっ、はあぁぁっ」
荒くなる呼吸。吸っても吸っても入ってこない酸素。心臓が悲鳴を上げる。物凄く強い力で握り締められるような、そんな感覚。もう大分忘れていた痛み。
「ど、どうした……?」
酸欠になり、手足がしびれてきた。そして感覚が無くなってゆき、耳と目が機能しなくなってゆく。そして最後には――。
――……。
私は意識を手放した。
死を覚悟した後は、簡単に意識を捨てることができた。別に生きることを諦めたわけではない。ただ、死を認識しただけ。
もともとこの歳まで生きられたことさえも奇跡だった。
私は初め、20歳まで生きられればいい方だと言われた。
親は私の生を諦めた。
そしてその分の想いさえも私の兄に託した。
兄は重すぎる期待に心を病んだ。
親は絶望した。
私は――。
私だけは何も諦めることが出来ず――。
私だけは何も捨てることが出来なかった――。
それは辛いことだった――。
死が遠くないことを理解しながら、延命の薬を飲みつづけた。
私の病は現代医療では完治できないという。
大金を積んでも、
私の命は買えなかった。