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例えば、こんな...
第6章 バレンタイン企画
「昨日、タクがやってくれましたから」
俺には穏やかに
「姫ちゃん待たせるのは可哀想ですよ」
佐伯さんには諭すように、桐生さんが言葉を振り分ける。
「ありがとうございます」
「後でバックヤードにご案内しますね」
「いつもスミマセン」
頭を下げた俺に桐生さんがニコリと笑った。その何とも柔らかな笑みのまま、シェーカーを高く掲げてリズム良く撹拌する。
横で佐伯さんが面白くなさそうに息を吐いた。
「……姫ちゃんは可愛いけど、タクは憎たらしい」

おっさん、何言ってんの?
……アホらし

完全に無視する事決め、あからさまな態度で佐伯さんに背を向ける。
「タク!六卓!」
「桐生さんが戻る頃には出せます」
「ふっ」
俺の返しにトレンチにグラスとシェーカーを乗せていた桐生さんが珍しく吹き出した。
「セージ!」
「出してきます」
肩を震わす桐生さんが厨房から逃げ出して、佐伯さんは黙々とデザートを仕上げていた金場−こんば−くんに目を向けた。
「タイキ、グラス磨き付き合え」
「へっ?俺?今日は彼女待ってるんで無理っす」
サラっと流され
「貴様もか!ったくどいつもこいつも菓子屋の思惑に踊らされやがって」
ぶつぶつ続く悪態にため息が出た。
「佐伯さん、仕事して下さい」
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