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例えば、こんな...
第8章 女子高生と先生と #1
乱れる心拍。
ふわりと綻んだ儚い笑みに息が詰まる。
「ありがとうございました」
「……お大事に。ゆっくり休んで」
どうにか紡ぎだした声。震えたり、上擦ったりしなくて良かった。
「はい」
頷いた河合を見て、もう一度兄に頭を下げられた。会釈を返し、でも視線は彼女から離せない。
「帰ろうか」
河合へ声を掛けた兄に桐生先生が扉を開く。壁に掛かる時計を見上げて、そこから視線を逸らした。
「気を付けてお帰りください」
「ありがとう」
兄に抱かれ、河合は帰って行った。

静かに扉を閉めて桐生先生が戻ってくる。
「色々ありがとうございました。助かりました」
柔かな笑み。軽く頭を下げられた。
「でも、どうして河合さんの事に気付いたんです?」
それは当然の疑問で
「彼女に声を掛けられたんです」
かい摘まんで事情を説明する。黙って最後まで聞いていた桐生さんがふっと口元を緩めた。
「そうだったんですね。ありがとうございます」
改めて軽く頭を下げた穏やかなその笑顔のまま
「真純ちゃん、可愛いでしょう?」

は?
真純、ちゃん?

「でも、壮先輩は手強いですよ?」

……なに、言ってんの?

確信めいた微笑みに、みぞおちが冷えた。
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