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鼓動
第1章 たすけて
「ただいま」

ドアを閉じて鍵をかける
「おかえり」と返事があるときもあれば
空気のように何もないときもある

わたしはいままで誰に

「ただいま」

と言うのか考えたこともなかった
それはお母さんかもしれないし
家という空間なのかもしれない

すたすたと階段を上がって部屋に入り
バッグを放るとベッドにうつぶせになった
まくらが冷たい
学校の廊下の冷たさとは違う
自分の匂いのする冷たさ

くやしくて涙がでてきた
誰かに対してくやしいのか
自分に対してくやしいのか
きょうはどっちだろう

涙のなまぬるさで顔を起こすと
いつから弾いてるのか
となりの家の女の子が奏でる
アラベスクが聴こえてきた
いつもおんなじとこでつっかえる

「うわ、じれったい」

いまのわたしとおんなじだ

なんであんなことくらいでどきどきするのだろう

遊んでて胸に手が当たるとか
誰でも経験することではないのか?
彼は笑顔であやまってくれたのに

「へたくそ!」

窓に向かって叫んだ
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