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悪戯な思春期
第2章 重ねた王子様は微笑んで
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八年間追ってきた自分に果たせなかったことを、目の前の男は九年前にやってみせた。
「瑠衣はまだファーストアルバム出したばっかで、全国ツアーの最中だった。俺も小学生だったからさ、周りの金銀の髪した大人が怖かった」
「はは、それは確かに」
「訳もなく怯えて、でも瑠衣の前に来たときは何も怖くなかったね。ただ一つ快感が強すぎて怖かった」
「快感?」
雅樹は鍵を開けている私の後ろで笑う。
「俺にとってはもう大スターだったからさ。ライブ前だったけど、衣装に着替えた瑠衣が『へぇ? 可愛いファンがいてくれて嬉しいな』って額にキスしたんだ」
「本当に!?」
振り返った私の前で雅樹は額を軽く指で叩いてみせた。
「それからは夢中だよ。どんなことしてでも瑠衣に逢いたくて」
(私と一緒だね)
ガチャリとドアが開き、私が先に、雅樹が後に足を入れる。
暗い室内で背後のドアが閉まると、言い知れない緊張が走った。
電気のスイッチを探して泳ぐ手を雅樹に掴まれる。
心臓が跳ねる。
背中が震える。
怖いと思った。
逃げたくなる。
だが、手は離れない。
『どうせ椎名のことなんだから、夜の知識とか零でしょ? …そこまでは無いと思うけど、いきなりキスしてくるような奴は絶対危険! 黄色信号越して赤信号! わかる? 女の子にとって一番大切なものの危機なんだよ』
美伊奈の声がガンガン響く。
(危険……信号?)
目が慣れてきて、恐る恐る雅樹を見上げる。不意に頬に手が触れた。
「西……」
緊張の所為で呼び捨てる勇気も無かった。
瑠衣の会話に戻りたい。
闇の中の雅樹の目は、満月みたいに空気を統べる圧迫感を醸し出していたのだ。
まだ甘い香りは残っているが、それは媚薬や木天蓼のように危険な罠に感じた。
玄関は畳一畳ほどのスペースしかない。
私は身動きも出来ず、ただ固まる。
「椎名」
名前が呼ばれてビクリと反応してしまう。
瞬間、眩しい光が目に飛び込んできた。
スイッチに置かれた雅樹の指。
苦笑いする彼の顔。
「そこまで怖がられちゃ、ね」
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