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悪戯な思春期
第2章 重ねた王子様は微笑んで

 安心したような、ガッカリしたような我が儘な自分の感情に呆れる。
 雅樹は靴を脱ぐと、逞しい背中を見せながら部屋に上がっていった。
 玄関に置いていかれた部屋の主は、自由の利かない体を懸命に操り彼を追う。
「勝手にっ……入んないで」
 雅樹の袖を引っ張って訴える。
 だが、彼の体は想像以上に力強く、歩みを止めさせることは出来ない。
 恐怖が蘇る。
 同時に窮地に立たされた緩い疼きが生まれる。
(あぁ、私は天性のMだ。こんな状況すら喜んでる)

 ようやく立ち止まった彼は部屋の最奥、ベッドの前に来ていた。
 それに気づき赤面する自分。
 そんな自分を上から下まで眺める彼。
「ナニ?」
 掴んだままの手を見て雅樹が言う。
 シワがついてしまった袖から、私は急いで手を離す。
 奇妙な間が空いた。
 今にも押し倒されるのではないかというスリルと、このまま永遠に時間が過ぎてしまうのかという危惧感。
「椎名」
 また名前を呼ばれる。
 返事をすれば良いのだろうか。
「……どうする?」
 野暮な質問だな、と思った。
 そしてすぐに、煮え切らない自分を思い返し否定した。
(まだ二日目だよ?)
(てか会ってからだと三日目)
(セフレじゃないんだよ?)
(ナニされるかわかんないじゃん)
 内なる自分たちは一層激しく抗議する。
(西雅樹が相手じゃ不足?)
 その問いが出ると静まった。
 雅樹は私をただ待っている。
 私が怖がっているから。
 覚悟ができていないから。
(待たせてどうする!)
 しかし、口が震えて言葉が出てこない。
 誘ったのは自分だ。
 自分がこの状況を作った。
「椎名」
 彼は優しく言って、唇を奪った。
 軽井沢から帰る時の一瞬とは比べものにならない熱い口づけ。
 弱々しく応じる私の舌を彼は巧みに絡ませた。
(キス……慣れてんだろな)
 段々と熱を帯びる頭の中でそんなことを思った。
 雅樹の手が頭を押さえ、色んな角度から咥内を貪られる。
 呼吸も辛く、混ざった唾液が顎を伝う。
 もう、考える力は残っていなかった。
 歯列をなぞられ、背中が疼く。
 私の反応を見て、彼は目を細めた。
(瑠衣……様?)
 錯覚してしまう笑みを浮かべて。
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