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可奈さん
第4章 傘
運転手がドアを開けた時、ヒールの女がふと足を止めて振り向いた。

俺ももちろん女が見た方向に目を向けた。


「ッ…」


女の後を追って可奈さんが駆け寄ってくる。傘も持たずに息を切らせ、女の前で立ち止まった。

縦に落ちていく雨粒は容赦なく彼女だけを攻撃する。埃っぽい雨の匂いが地表から喉元まで上がってきて、息苦しさで胸が痛い。

可奈さんは女に何かを手渡そうと何度も両手を差し出していた。まるで懇願するかのように。


俺、見てはいけないものを見てるんじゃないのか?


運転手が傘をさしたまま2人の間に割って入った。女は車に乗り込み、傘をたたんでドアを閉めた。

黒の高級車が走り出すまで、可奈さんは車の窓に取りすがっていた。でも車が水しぶきの轍を残して走り去ったあとは、へなへなと地面に座り込んだ。

彼女は最後まで傘を差しかけられる事なく、その細い肩は雨を纏ったまま震えていた。



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