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可奈さん
第4章 傘
「……」

「あ、私のせいでずぶ濡れ…。あの、井口さん、ちょっと家に寄ってください」

「あ、いえ俺は…」

「あら、うちの玄関はお馴染みでしょう?
ピザは頼んでないけどね…ふふ…」

「はぁ…」


先に歩き出した可奈さんが濡れないように、傘を持つ腕を伸ばす。彼女はエントランスの手前で立ち止まり、ワンピースの裾をたくしあげて雑巾を絞るように雨の束を道に流した。


「あはは、すごーい」


少女の様にはしゃぐ彼女の脇には札束を覗かせた封筒が挟まれ、裸足の指先には桜貝みたいな可愛い色が並んでいる。

アンバランスな絵画をなんとか理解しようと努めて観る時みたいに、俺は可奈さんに見入っていた。

こんな風に人を見つめた事があったっけ。


「さて、行こうか若者」


彼女はさっきとは別人の顔で笑った。
俺がどれほど焦っているかも知らず、どれほど胸を高鳴らせているのかも知らずに。



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