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甘いだけの嘘ならいらない
第4章 月が溶ける朝
「…後悔、してるよな。理紗はいいこだから」
「…いいこなんかじゃ、ないよ。でも後悔はしてる……」
「そうだと思った。でも俺は、後悔してない」
翔はまっすぐにあたしの瞳を見据えて告げた。
トーストの最後の一口を頬ばる。
紅茶を飲み干してマグカップを置くと、背中から優しく抱きしめられた。
「思えば一目惚れだったんだと思う。初めから、瞳を奪われてた」
「全然、そんな風に思われてるの、知らなかった…」
「だろうな。けど俺は、理紗のことばっか考えてた。仕事してても、飯食ってても、風呂の中でも…いつもふと気づけば、思い出して」
「……あたしは翔のこと、遠い存在って思ってた」
「…何で?」
「なんだかすごく、大人に見えて…翔に名前で呼ばれるのが、まだ夢みたい」
こんなふうに朝を迎えることなんて、隣りあって朝食をとったり、抱きしめられたり、耳元で甘く囁かれたり、するなんて、想像もできなかった。
それくらい、あたしの心は英士くんでいっぱいで、隙間なんてなかった。
純粋に一途に、彼だけを見つめてた。