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第5章 優しさだけのアイロニー

あたしはこの優しいひとを、傷つけてしまった。
絶対に裏切ってはいけない、愛しい人を。


英士くんだけを想っていたいと、あの夜、あんなにも願ったのに。


こんな曖昧な心で、触れるのは嫌なのに、それでも、あたしは彼に触れる。


あたしはいつからこんなに弱くなったの。

一体いつから、こんなにずるくなったの。


いくら考えても答えは出なくて、ため息だけが静かに零れて、空気に混じって消えていった。