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甘いだけの嘘ならいらない
第5章 優しさだけのアイロニー
英士くんの声は切実で、きつく抱きしめてくれる腕は、なかなかあたしを離そうとしなかった。
英士くんがあたしを必要としてくれてる。
それだけで、こんなにも嬉しくて、愛しくて、また泣きそうになった。
「理紗…」
「ん…」
触れるだけのキス。
唇を優しく吸われて、薄く唇を開いていくと、英士くんはバスルームの入口の壁にあたしを押しつけて、両側に手をついた。
濡れた舌が口内に忍ばされて、深く絡みついてくる。
息苦しくて呼吸をしようとしても、そのわずかな空気さえ奪うように、もっと深く舌を吸われる。
「んん…っ、ふあ……」
くるしくて熱くて、せつないキス。
あたしの心を英士くんでいっぱいに染められてゆく。
涙が潤んで、瞳のおくが熱くて、じんじんする。
英士くんのキス、英士くんの吐息、英士くんの、体温。
あたしが欲しいものを、英士くんは全部くれる。
名残惜しそうに離れた唇と唇は、銀糸を伝って、ぷつりと切れた。
「英士、くん…」
「お湯が冷めないうちに、行かなきゃね。…またあとで」
英士くんは物欲しそうにあたしを見たけど、やんわりと制して、身体を離した。