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第4章 切断
 「……ほんで、お正月は帰ってきよう? 帰ってきよるやろ? 今年のおせちはちょっとええん買おう思っとうし、ほら、でっかいエビとか入ってそうなんあるやん? あれ、ほらあれ、なんて言うんやったっけ、ど忘れしとうね、えっと……」
 「まだ分からへん……仕事の都合もあるし、混むんややし」

 麻琴も自然に地元言葉に戻って答える。
 中途半端にほてっていた身体は一気に冷めた。
 少し、寒い。
 あらためて、もう十一月も終わりに近づいてきていることを実感した。

 母に『分からない』と答えたのは本当に分からないからではない。
 年末年始は教室は休みだ。休暇日程もとっくに決まっている。仕事の都合なんてものはない。
 帰省したい気持ちもあるが、正直面倒でもある。この場で帰ると決めてしまいたくないし、やめると言えば母が残念がるだろう。
 答えを先延ばしにしたいから『分からない』と言ったにすぎない。

 「お母さん新幹線取っといたげるやん、帰っといでえよ。ナナちゃんも帰ってきようよ。ああ、そう、こないだタクちゃんに会うたら、もうしゃべってんよ? ようしゃべんねん、あの子絶対頭ええよ」
 妹の菜奈も子供を連れて帰ってくるらしい。

 それよりも麻琴は、早く電話を切るか、話が途切れない母を制止したかった。
 話すなら話すで貞操帯を外したいのだ。
 股間に異物の感触を抱えたまま母の声を聞いていると、麻琴は罪悪感にさいなまれ、いたたまれなくなってくる。

 電話の向こうで母は、いつも以上に一方的に話し続けている。おそらく父と喧嘩でもしたのだろう。
 母だけでなく、自分より先に結婚した菜奈や、口数少なく頑固な父の姿がいやおうなしに頭に浮かんでくる。
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