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第1章 脱出

ウィ～ン!!ウィ～ン!!

けたたましいサイレンの音が男の頭を揺さぶり目覚めさせる。

「ん～。何だぁ?」
男は朦朧とした意識で身体を起こそうとしたが動かない。

「何だっ!これっ!」
頭と両腕、両脚が拘束具でベッドに固定されている。

仰向けに縛り付けられた男の頭上には無影灯が吊り下げられ、ベッドを取り囲む様に鈍い光を明滅させている得体の知れない機械が所狭しと置かれている。

「手術室?!」
男のイメージでは、正に手術室だ。
今まで大した病気や怪我をした事もなく病院に縁の無かった男には手術の経験も無かったが、「絶対失敗しない女医」が主人公のドラマで見た光景を連想させる。

「なっ!何で、手術っ?!俺がっ?!」
状況から自分が手術の対象者である事は一目瞭然である。

「何でっ?!」
混乱する意識に鳴り続けているサイレンの音と喧騒が割り込んでくる。

「逃げなきゃ!!」
男の防衛本能が頭の中で叫ぶ。

「クソッ!外れない」
意味不明の緊急事態に手脚を動かすが、男を縛り付ける拘束具はビクともしない。

「助けてっ!助けてくれえ～!誰かっ!助けてくれえ～」
男は声の限り叫ぶ。

「助けてくれえ～!」
男の絶叫に反応した様に、プシュゥと音がして手術室のドアが開き老人が駆け込んできた。

「助けてっ!」
男の言葉を無視する様に、老人は手際よく拘束具を外していく。

「早く逃げるんじゃっ!」
老人は自由になった男を促す。

「何だよ!一体、どういう事何だよっ!」
「話は後じゃ。とにかく逃げるんじゃっ!」
老人は、男の手を取ると必死の形相で手術室を飛び出し長い廊下を走り続ける。