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白い飛沫(しぶき)
第14章 人気作家
飛ぶ鳥を落とす勢いとは、
まさに今の僕の事だろう。

順也が世に出す作品は全てヒットした。
世間では僕のことを、
官能小説のプリンスと呼んでいるらしい。

今にして思えば文江は
最高のあげまんだったかもしれない。
あのとき、文江との情事を拒んでいたなら、
今の僕の地位はなかっただろう。

その地位のおかげで
女には何不自由したことがなかった。

僕の作品のモデルにさせてくれと、
頼みもしないのに、女たちは股を開き、
僕を咥え込んだ。

しかし…

どうやら文江のあげまんのパワーが
切れてきたかもしれない。

なんといっても、
文江はもうこの世にはいないのだから。

新作書き下ろしのペンが進まなくなった。

この世界に身を投じて15年になるが、
こんなことは初めてだった。


昨夜から、僕はホテルに缶詰め状態だ。

気分転換に部屋を抜け出したくても、
出版社の担当が目を光らせているので
自由に外出もできない。

これでは仕事に名を借りた監禁ではないか。


〆切まであと3日。

大丈夫、書き上げますよと言っても
一向にペンが進まないものだから
出版社の監視もますますひどくなる。

ペンが進まない理由はわかっている。

今回のテーマが官能時代劇だからだ。

なにも僕にこんなものを書かせなくても、
このジャンルには大御所が何人もいるじゃないか。

台詞ひとつにしても、
古風な言い回しを書かなければならない。
ああ、もうイライラしてくる。

コンコンとドアをノックする音で我に返る。

「はい、どうぞ」

僕に断りもなく、担当の吉岡が訪問者を招きいれる。

入ってきたのは30代の女性。

細いフレームの眼鏡が
細面の顔によく似合っている。
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