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あの店に彼がいるそうです
第9章 俺は戦力外ですか
 リビングに入ってからやっと口を開く。
「愛は、どの派閥にも入ってなくてね。まだシエラに来て二か月なんだけど」
 二か月。
 それで№に入ったってこと。
 煙草を咥えながらキッチンに入る。
 冷蔵庫から作り置きのラザニアを取り出して、盛り付ける。
 一人分。
 俺のだけ。
 差し出されたそれを受け取る。
 類沢はワインのボトルを持ってきて、テーブルの席に同時に座った。
「話したことはある?」
「ないです。顔もうろ覚えくらいで」
「そう。まあ、そうだろうね。愛は誰にも仲間意識を持つ気はなくて、よく篠田とぶつかるんだ。一人だけであれだけ客を集めたってのも結構不審がられててね。噂だとどこかの店のスパイじゃないかって」
「スパイ!?」
 俺はスプーンから具を落としてしまう。
 撥ねた液をティッシュで拭う。
 服に付かなくてよかった。
「その言い方だと現実味ないけどね。他店の偵察隊。だから客も協力者って形で着くだろうし、あえての孤立も意味がわかる」
「類沢さんはどう思ってるんですか」
 グラスを指で叩く。
 一息ついて、机にもたれる。
「どうだろうねー。面接に立ち会ったときにさ、必死だったんだよ。こう、今すぐ金が必要で、何をしてでも稼いでやるって。珍しかったね。篠田はその態度が気に入って採用した。驚いたよ、それからは。僕は篠田の集計を見せてもらってたんだけど、二週間で上位に入ってきてたね」
「異例ですか」
「今の瑞希が客を二十人抱えてるって想像してみて」
「……凄いですね」
 客を取る。
 ホストの基本にして最重要課題。
 俺は無知に近くて、客寄せすら掴めない。
 コトン。
 ワインを飲み干してからふっと笑う。
「一度強引に呑みに連れて行ったことがあったんだけど、一匹狼っていう雰囲気は仮面なんだなって思ったね。実際は繊細で、よく周りを把握してる」
「稼ぎたい理由ってなんだったんですか」
「それだけは言えないの一点張り。借金かなとは思ってたけど、どうにも切羽詰ってるんだよね。それでさ、今夜ざわついてたのは一か月前に愛が宣言したんだ。来月№に入るって。大抵笑い飛ばしたよ。その時点での実績は十六番。そこから五番に入るなんて、って」
 蓮花の言葉が浮かぶ。
-春哉が……なんでこの店開いたか聞いてみなさい? それがわかったら、NO.4には登れるわ-
 それがわかったんだろうか。
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