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あの店に彼がいるそうです
第9章 俺は戦力外ですか
 訊いてみたいが、類沢に訊いても蓮花の云う効果は無いように思えた。
「信じて警戒していたのは紅乃木と千夏。晃は高を括ってたんだろうね。ある意味予想通りって感じだった。これからが面白くなってくるだろうね」
 なのに、全然楽しそうじゃない顔。
 なんだろう。
 類沢の眼に浮かぶ憂いは。
 外じゃ話せない事って。
 食べ終えて、グラスを貰う。
 そういえばこの仕事後の飲みも抵抗なくなってきた。
「なんで派閥に入らないんですか」
「うん。言い方が悪かったよね。一度入った派閥を潰したことがあるんだ、愛は」
「潰……す?」
 トポトポと。
 ワインがグラスの中を滑る。
 その赤さが目につく。
 血みたいに。
「まとめて云うと、六人ぐらいの派閥だったんだけど愛以外が辞めたんだよ」
「なにがあったんですか」
 言葉が途切れる。
 唇を指でなぞる。
 つい見てしまう。
 綺麗な爪だなとか。
 なんでパーツ全体が整ってるんだろうとか。
 少し斜め下を見ながら考える眼とか。
「先入観を持ってほしくはないんだけどね……うん。言葉で人を操作するのが巧いんだ、愛は。本人は知らないそぶりだったけどね。元々協調性が薄い派閥を一気に集結させて、そこから呆気なく手を引いて壊したんだよ。見ていて爽快だったくらい」
「なんというか……ええ?」
 想像してみても具体化できない。
 人を操る。
 手を下さずに分裂させる。
 ゲームみたいだ。
 映画に出てくるような。
 それを愉しんで傍観してる類沢だけは容易に浮かぶ。
 不思議なことに。
「止めなかったんですか」
「新入りに壊される程度の派閥だったら切りたかったからね。丁度よかったよ」
 だんだん低くなる声に寒気がする。
 トップとしての類沢は、余りに冷たい。
「瑞希が入ってくる前に新入り四人切ったんだよ」
「それは、どうして」
「全員同じことを言った。愛を辞めさせてくれって。僕は代わりにこう答えた。愛より稼いだら、いいよって」
 なんだか、違う響きに聞こえてしまう。
 愛より稼ぐ。
 ある意味格好良すぎる名言だ。
「で、稼げなかったんですか」
「そう」
 だから切った。
 当たり前でしょ。
 そんな裏の声が聞こえた。
 グラスに口を付ける。
 飲む間、類沢を見られなかった。
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