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あの店に彼がいるそうです
第9章 俺は戦力外ですか
「給料受け取った後に、少しだけ愛さんが類沢さん見たじゃないですか」
「瑞希はよく気づくね」
 いや。
 あれほど印象的だったアイコンタクトはない。
 そういいたくなるのを留める。
 類沢は微笑んでから頬杖をついた。
「あいつの眼、凄かったでしょ」
「恐かったです」
「あははは。だよね。きっとね、言葉通りまだまだ上がるつもりなんだろう。僕を超えるまで。それまでは眼中にすら入れてなかったくせに、僕を意識し始めた。瑞希は直接言ってくれたけど、愛はあの眼だけで宣戦布告したんだ」
 俺の名を出さないでほしい。
 穴があったら入りたい。
「応えたんですか」
「ん? ああ、そうだね。さっさと来いってね」
 数瞬開いた瞳孔。
 手加減なんてしないって。
 そう放つ。
 俺は拓のことが気がかりになった。
 たぶん、愛と共にトップを駆ける拓が。
「大丈夫だよ」
「へっ?」
「瑞希の友人を蹴落としたりしないから」
 口を開けたまま止まってしまう。
 なんで読めるんだ。
 類沢は席を立ってソファに向かった。
 煙草を片手に。
 ギシリ。
 窓を眺めて座る。
 脚を組んで。
 ああ、まただ。
 写真を撮りたくなるほどの美しさ。
 凄いな、本当に。
 たった十年弱の差ってこんなに大きいのか。
「晃のことは、自分で対処してみる?」
 おもむろに言われたから、認識するのに時間がかかった。
 がたりと立ち上がる。
「なんで、それっ……」
「わかるよ。いくら脅されてる?」
 晃が殴ったのは拓なのに。
 アカが守ったとはいえ、俺との関係は言わなかったのに。
 やはり読まれてるんだ。
 ぎゅっと服の裾を握る。
「火傷だけなわけないよね」
 傷跡に触れる。
「はい。俺が落としたルイ……晃さんへの注文だったじゃないですか。だから、百万弁償しろって」
「ふうん。馬鹿だね」
 笑いながら。
 類沢は晃を芯から悪人だとは思ってないんだろう。
 俺もそれだから揺らぐ。
 もちろん不当に金を払うのも、これ以上嫌がらせを受けるのも嫌だが。
 類沢に守ってもらうのも違う気がする。
「自分でやります」
「いいね」
 灰皿に煙草を押し付けて、そう答えた。

 風呂を済ませて寝室に入る。
 髪を乾かした類沢がベッドに座る俺を眺める。
 下ろした髪を揺らして。
「なんですか」
「瑞希が№に入る日も来るのかなって」
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