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あの店に彼がいるそうです
第9章 俺は戦力外ですか
「来ると思いますか」
「シエラを好きになってくれたら、あるかもね」
 棚から本を取り出す。
 それを持って出て行こうとした類沢を呼び止める。
 なにを言おうかも決めずに。
「どうしたの」
「あの……俺でも類沢さんの隣に行けますか」
 壁に手をかけて振り向く。
「いつでも待ってるよ」
 出て行った後も目を離せかった。

 ベッドに横たわる。
 なんだろ。
 なんか、うれしい。
 俺って本当に単純だよな。
 でも、どうなんだろ。
 三嗣がトップを目指すように、拓が追い上げる気満々なように、俺も上に行きたいのか。
 大学を思い出す。
 先輩とのサークルに飲み会。
 講義。
 バイト。
 あの日々は、今よりずっとこうして横たわってる時間が長かった気がする。
 今ほど毎日を懸命に生きてなかった。
 電気の消えた部屋で、月明かりだけで天井の模様を目でなぞる。
 河南。
 ああ、きた。
 一日に何度か河南がふっと頭を占める。
 そのたびに何してんだって思う。
 彼女をおいて。
 給料は全部借金返済に出したから、デートも出来ない。
 いや、しようとすらしてない。
 メールも電話も。
 河南からも来なくなった。
 あの日以来。
 駅で、言えなかったこと。
 彼女だよって。
 今もまだ反省する。
 なんで言わなかったんだろう。
 自信がなかったのか。
 俺は彼氏という自信がないのか。
 ズズと足でシーツを擦る。
 玲の薬がなかったら、言えたんだろうか。
 ここで、このベッドで起きたこと。
 忘れられるわけがない。
 いちいち類沢さんの仕草に反応するのもそのせいだ。
 きっと。
 そういえば、聖はどうなったんだろう。
 雅樹は。
 本人だという証拠はないのに、確信してる。
 大学行きながらホストしていた。
 それも凄いな。
 だから、人と違う空気だったんだな。
 ぼんやり考える。
 これで玲も同じ大学でしたって言ったら最高に面白い。
 いや、最悪だけど。
 寝返りを打つ。
 なんでホスト始めたんだろ。
 注射された腕を摩る。
 まだ虫刺され程度に膨らんでいる。
 あの時、なにがあったのか俺は全部は知らない。
 チーフの話も断片なんだろう。
 ただ、俺一人の為にシエラの全員と八人集が動いたのは事実。
 思い返してみると凄いことが起きてたんだな。
 大学じゃこんなこと絶対なかった。
 
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