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散る華如く
第3章 郭を訪れて・・・
「ねぇ・・・さっきから気になってはいたんだけどさ、アンタは『華追い屋』の下働きか何かかい?」

「いえ・・・あの店は母が営んでいるんです。」

しをなは懐かしむように目を細めた。

「じゃあ・・・あの傾城嫌いのおかみさんの娘?」

「母のこと、知ってるんですか?」

「そうさ、あのおかみさんは傾城たち(オレら)に着物を仕立ててくれるけど・・・オレら傾城たちを嫌っているみたいなんだ。」

「・・・前も、近寄るなって言われたし。」

「お母様が・・・?」

しをなは驚いたというより、傷ついたような顔をした。

―自分やお客に分け隔てなく接してくれる母が、どうしてそんなに傾城を嫌うのか―分からなくて。

「―あぁ、すまないねぇ・・・アンタはおかみの娘だ。」

彼は申し訳なさそうに微笑んだ。

「いえ、そうじゃありません。誰にだって優しい母が、なぜ貴方たちを嫌うのか分からなくて・・・」

「どうしてさ?」

「わたしには、あなたが悪いひとには思えません。だからです。」

「アンタは優しいんだね。」

ときわはふっ、と笑った。

その微笑みは―嬉しそうにも、悲しそうにも見える。

「でも、オレらは傾城。身体を売り―恋を売るのが仕事だ。軽蔑されても仕方ないかもねぇ・・・」

「わたしは軽蔑なんかしません・・・」

「え・・・?」

「だって、嫌う理由にならないです。」

しをなは微笑んだ。

「本当にアンタは・・・」

彼は嬉しそうな、それでいてどこか悲しそうな表情で呟いた。
「え・・・?」

「そろそろ床入りの時間だよ・・・」

ときわは妖しい笑みを浮かべた。

「でも、わたし・・・」

しをなは泣きそうに瞳が潤ませて言った。

「怖いのかい?」

「だって、わたしは・・・」

「―“初めて”・・・なんだろう?」

「こういう場所だって、分かっていたはずなのに・・・ごめんなさい。」

彼女は潤んだ瞳をそのままに、謝った。
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