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花に酔う
第4章 椿 *
そう呟くと同時に、庭から入り込んできた風に揺れた君の髪。
それに誘われるように、僕も指先で梳いてみる。
畳の上に置いていた椿の花を耳の上に飾った。
それは幼い日の記憶と重なる。
あどけない笑顔で髪に近づけた白い花。
『かわいい?』と口にする君――――。
「――――っ……」
……もう、君はいない。
この世界から消えてしまった。
は……、と苦しさを逃すように大きく息を吐けば
急激に襲ってきた、激しい喪失感。
止まらない震えを押さえるように
愛してた、と呟いた。
これからもずっと愛してる、と。
聞いてくれる君がいない今
それはもう……ただの独り言でしかない。
それでも――――。
君のためにずっと生きてきた。
僕のすべてが君と共にあった。
それはこれからだって変わらない。
僕はずっと君への想いを抱いたまま……罪を背負い、そうやって生きていく。
君を、これからも愛していく。
そっと寄せた唇。
もう応えてはもらえないその口づけ。
持っていかれた僕の心。
もうここにはないはずなのに何故かひどく痛む。
……こんなにも今日は空が真っ青なのに
君を喪った僕の心がそんなふうに晴れ渡ることは、もうきっとないんだろう。
それでも。腕の中の君に
その、亡骸に誓う。
『ありがとう』
……君の声が、聞こえた気がした――――。
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