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花に酔う
第3章  金木犀 * 


きっかけは、彼女の言葉だった。


――わ。


衛星放送の音楽チャンネルを見ていた彼女。
ぽつりと、独り言のように呟いた。


何気なしに視線を向けたそのテレビの画面に映っていたのは。


椅子に座る半裸の少女。
身体に巻き付けられた赤い縄。
無表情のまま、微動だにしない身体。
まるで人形のような。
何かのオブジェのような。


……何、これ。


時折、アップになるその身体の一部分。
肌に縄の食い込む柔らかそうな身体は、人形ではなく、人間のそれ。


彼女と同様、僕も。
その画面からなぜだか目が離せなくなって。


……そしてやがてそのPVは終わり。
ふたり同時に、深い息を吐く。
無意識のうちに浅い呼吸になっていたようで。


――なんか、すごかったね。


また、ぽつりと彼女が。


そうだね――――と。
僕も、それに言葉を返しながら。
結局あれは人形だったのか。
それとも人間だったのか。
直後、少しだけ思ったそのことも。
いつのまにか気にならなくなっていった。



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