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花に酔う
第4章 椿 *
……どうして。
行き場のない、絶望的な思いを抱いたままでついた深い溜め息。
そんな僕に気付かない君はあくまでも静かに……庭から時折入り込む風に髪を──服の裾を揺らしてただそこに佇む。
すらりとした美しい背中。
僕に縋るような言葉を口にしておきながら、どこまでも僕を拒むかのようなその背中。
……君は、そうやって。
僕のことなんか見て見ぬ振りで。
僕の気持ちなんか気づかない振りで。
そうやってこんなふうに、平気で背を向けてしまえるんだ。
ぎりっ、と噛んだ下唇。
それでも震えてしまうそこ。
「お願い──……」
そう繰り返す君の顔は僕からは見えない。
それでも、僕にはわかる。
今、君がどんな表情をしているかなんて、いやというほどわかる。
だって僕は、君だけを見てきたんだから。
ずっとずっと、君だけだったんだから。