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人妻短編集
第4章 人妻 麗子(45)
「おぉ、熊谷君、今回はいい仕事をしてくれたようだねぇー、私も嬉しいよ」

支社長は、満面の笑みを浮かべていた

「えっ、仕事…?」

「先日の役所の件だよ」

横から黒崎が言った

「えっ…私…特に何も…」

「いや、あの堅物で有名な部長が、我が社の仕事を大変誉めてくれてねぇ、これからも仲良くやっていきたいって言ってくれたんだよ」

支社長は、心の底から嬉しそうだった

「…あの部長…あの痴漢」

麗子は、黙って聞いていた

「まあ、それで、次の金曜日に部長さんと一杯やることになったんだけど、是非熊谷君にも来て欲しいんだよー」

嫌です

言葉が喉まで出かかった時

「僕も行くよ」

横から黒崎がそれを遮った

「先方には熊谷君が同席するとは言ってないんだよ、ただ、君のことを素晴らしい女性だと誉めちぎってからねー、是非同席して欲しいんだよ」

「…」

麗子は、無言のままでいた

「頼む、熊谷君、会社のためだと思って、仕事だと思ってくれ」

支社長は、突然立ち上がり、両手を机について麗子に頭を下げた

「あの痴漢…そんなに偉い奴なんだ…」

「会社にとっても光栄なことだよ、大手と勝負するにはコネ作りも必要なんだ、ただの飲み会だよ」

職場で最も信用している、上司の黒崎が言った

「わかりました…」

会社を全面に出されて、麗子は断ることができなかった…






役所の部長、藤川は、金曜日の夜、割烹へと向かう部長用公用車の中で思っていた

あの日の朝、雪が降り、迎えに来るはずの公用車が事故を起こしてしまった

だから、仕方なく電車に乗った

そして、麗子を見かけた…


「人生ってのは、面白いもんだ…」



公用車が止まった

「今日はここまででいい…」

運転手に言って、藤川は車を降りた

割烹の入口で、支社長と黒崎が出迎えた

麗子は、個室の中で一人、正座をして待っていた

「何も知らないことにしよう…何も気づいていないことにしよう…」

心に決めていた…

そうしなければ、とてもこの場に耐えられない

ドヤドヤと音を立てながら、3人がやって来た

女中が襖を開けた

「おっ、ほう…これは先日お会いした美しい社員さんかな?」

藤川は、驚いたふりをした

藤川は、上席に案内されて座った
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