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泡のように
第18章 17.
「おはようさん」

 木戸は60代のおばさん同士のような挨拶を私にして、すぐに目線を手元のスマホに落とした。
 木戸の頭脳レベルは私と大差ないらしく、ほとんどの補講で彼と肩を並べている。
 私は木戸の挨拶に小さな声で「ハヨー」とだけ答え、クーラーの吹き出し口の真横の席に腰を下ろした。

「先生は?」

 机に突っ伏しながら、聞こえているはずという体で木戸に尋ねた。

「知らねぇ。さっき突然出てった」

 椅子を引く音が聞こえ、すぐに足音が近付いてくる。
 顔を上げると、眉毛のない木戸の顔が私のすぐ側でニヤニヤ歪んでいた。
 クソ暑いのに、やっぱりマスク姿で。

「さっきさぁ、秋芳と一緒に2階のトイレに入ったろ」

 面倒な場面を見られていたらしい。
 あからさまにため息をついて、私のすぐ前の席に腰を下ろした木戸の細い目を睨みつけた。

「だったらなによ」

 年季の入ったiPhoneを左手から右手へ、右手から左手へ、ひとりキャッチボールする木戸は終始ニヤニヤしている。

「エッチなのー」

 ひとりで言って、ひとりで笑っている。
 童貞でもあるまいし、何が可笑しいのか分からない。

「付き合ってんだから、エッチなのは当たり前じゃん」

 木戸はヒュウと唇を鳴らした。
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