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贄姫
第2章 弍


いつも、何かあればすぐに周を呼んでいた。
しかし、今はそれもできず乾ききった口の中を
瓊乱の唾液に満たされ冷静さをすぐに失った。


このまま、自分がどこまでも堕ちていくのかと
そんな罪悪感と恐怖があった。


それを見越したのか
瓊乱の目が黒く戻っていた。


「…瓊乱…」


「ん?」


ハスキーな声はいつになく優しい。
よけいに涙が出た。


「瓊乱、あたし…」


汚れちゃった…。
そう思った。
瞬きすると、涙が落ちた。
その度に視界がクリアになっては
また涙でにじんだ。


「…汚れちゃったの…?」


ほしい答えがあった。
汚れてなんかいないという。
だが、
瓊乱が選んだ答えは望みとはかけ離れていた。


「ああ。汚れたな」


そうか、と妙に納得したのと
悲しさとで嗚咽は声にならず、喉が鳴った。


「安心しろ、椿。
俺がもっと、汚してやる」


俺のこと忘れられないくらいに。


そう言って椿の涙を拭う鬼は
この世のどの生き物よりも美しく
そして、猟奇的に残酷な目をしていた。


「他の妖に犯される前に、お前の初物はいただく。
でないと、お前、万が一襲われた時に、妖の子を身籠りでもしたら大ごとだからな。
術がかけられた秘薬は、俺がお前の中に挿れてやる。
光栄に思えよ、この俺に初物を捧げる嬉しさに喜んで泣け」


近いうちに必ず、お前の身体は俺のものにしてやる。
それまではせいぜい、汚れきっていないその身体を楽しめ。


瓊乱はそう言うと、縁側からでて行った。
椿は、呆然とその姿を見送り
そして、布団へと戻った。
朝起きたら、全てが夢だったらいいのにと思いながら
きつく目を閉じた。


悪夢のような17の誕生日から、
すでに2週間以上が経過していた。
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