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忘れられない指
第5章 思いもよらぬ・・
商店街は誰も歩いていない。

弱く吹く風に体を揺らしながら、ポツリポツリと灯る街灯の下を、
孝明に腕を掴まれながら歩いていく。

BARシークレットの前まで来ると、いったん足が止まった。
中から笑い声がかすかに聞こえた。

「・・咲子ちゃん・・?」

孝明の手に力がこもる。
二の腕が少し、痛い。

「あ、ごめん!さぁ帰りましょ~」

あいている片手を振り回しながら、懸命に前へ前へと足を踏み出した。


アパートの前までたどり着くと、安心したのか急に腰の力が抜けて、
階段の下で座り込んでしまった。

「ちょっと、咲ちゃん、大丈夫?じゃないよな。
 ほら、部屋まで連れていくから、はい、立って立って」

腕を掴むだけでは足りないと、孝明は私の脇腹を掴むようにして体を抱えると、
ゆっくりと階段を上がっていく。
私もなんとか足を動かし、やっとのことで2階にたどり着いた。

小さなバッグの中から鍵を出そうとしても、なかなか見つけられない。
見かねた孝明がバッグを取り上げ中をかき回す。
鍵はすぐに見つかり、孝明がドアを開けてくれた。

だが私は玄関に入るとその場に座り込んでしまった。
頭がフワフワしている・・

「ちょっと、咲ちゃんしっかりしなよ・・もうしょうがないなぁ。
 ちょっとお邪魔しますよ」

孝明が中に入ってドアを閉めた。
ガチャ・・
ロックする音はなぜだかはっきり聞こえた。

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