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第1章 錆
 ブランコを揺する金属音が響いている。
 肌寒くなってきた風を切るように、楽しげな声を切り裂くように、高い音でキィキィと鳴っている。


 背の高いコンクリート造の団地に四方を囲まれた狭い公園には夕日が届かない。
 まるで夜のように濃紺が雑草と砂だらけの足元を不安定にしている。
 風が吹くと黄色い柵の向こうに赤いボールがふらふらと転がっていった。
 ところどころ茶色く褪せたピンク色の花が植え込みで咲き乱れている。
 落ちた花びらの上に下ろした茶色いリュックは白く砂にまみれていた。
 赤いランドセルは薄汚れたリュックに寄り添っていた。


 半袖Tシャツとスカートから露出した肌を冷たい風が撫でる。
 建ち並ぶ長方形の隙間から見えた夕空の濃紺と薄ブルー。
 手の中にある太いチェーンの冷たさと硬さ。
 風の中でいつか一回転できるんじゃないかと無邪気に興奮する。
 もうええやろもうつかれたわ。
 笑った低い声が私の笑い声のなかに聞こえた。



 徐々に景色が速度を緩めて正常に戻る。
 名残惜しい気持ちのまま削れた地面にスニーカーの底をつける。
 振り向くと帰ろうやと手を差し出されるから、黙ってそれを握る。


 無人のまま風にゆらゆら揺れる釣り椅子。
 濃紺の空間に佇む褪せたブルーの支柱。
 破れた障子の穴のようなかたちした錆。
 赤ともオレンジとも茶色とも言えない、錆。

 
 あんなにさびちゃってて壊れへんのかな。ブランコ。
 返答のない肩に尋ねる。
 薄汚れたリュックと、汚れはじめたランドセルを担いだ右肩に。
 返答のない横顔に。


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