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第1章 錆
 手のひらから落ちる緑色の羽。
 潰れたからだ、折れた身体から滴る黄色い液体。
 べりっと剥がすように畳の上に落とすトゲトゲした線みたいな足。
 耳の中に貼り付いた羽音。
 錆の赤とも茶色ともオレンジとも言えない、剃刀の刃先に浮かんだ、腐った色。

 濃紺の空のしたにあった。
 冴えない表情した朽ちていくコンクリート。
 ブランコを押す手。
 支柱に浮いた錆。
 褪せたブルーと鉄が腐ったオレンジ。
 クリーム色のホーロー、メッキの排水口、ヘアピンの形した錆。
 フタが開いたまま埃がぶった化粧水の瓶。
 そのとなりに寄り添う、同じように分厚く埃かぶったブルーの整髪剤。

 ボタンの開いた黒い詰襟と隙間に見えた白いシャツ、と、薄い黄色した、ボタン。
 畳の上で蛇腹に脱ぎ捨てられた黒い学生服のズボン、ループに通った黒いベルト、中から覗くブルーのストライプ。
 その隣に寄り添うリボンのついた・・・

 流れたままの水道水。
 腰を屈め続けるしんどそうな体勢。
 あのキスは黄色い空間で、その先はカビくさい布団の上で。

 唇にあたる、おっぱいにあたる、おなかにあたる、背中に、尻に、太もも、私のすべてに。
 朝剃ったはずの髭が、もう1ミリくらい伸びて私に当たる。
 私の肌から離れた錆のように、チクチクと、滑らずに、突き刺さるように、引っかかるように。
 私に。

 汚れた手のひらを洗いもせず、私のからだに触れる。
 ブランコの背中を押してくれた笑い声。
 虫を殺してくれた返答のない。

 錆のように赤ともオレンジとも茶色とも。
 形容できない形でいいから。

 あの羽音を立てていた虫のように。
 腐ってまで存在を主張する錆のように。
 いつか一回転出来ると興奮する声のように。
 
 私も。
 私も。

 返答のない腕の中でだけは。











【おしまい】
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