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第1章 錆
 剥き出しのコンクリート、グレーの階段。
 蛾とカナブンの舞う黄色い蛍光灯。
 塗りたて注意と喚起したくなるクリーム色のドアに左手が鍵を差し込む。
 階段と同じ色した玄関で白いスニーカーを脱いでそのまま、パチンと音たてて電気のついた黄色い洗面所で手を洗う。
 蛇口から畝ねり出る一直線の水道水が排水口に吸い込まれていく。
 ちゃんとうがいもしぃや。
 板間に音を立てて投げられたふたつの荷物。
 コップを取ると、ヘアピンの形くっきりに錆びたホーローが見えた。


 視界の左側から手が伸びる。
 私の手とぶつかりながら、両手を擦り合わせながら、水道水で汚れを落としている。
 石鹸は?
 尋ねて左側を見上げる。
 埃かぶったブルーの整髪剤が横目に見えた。
 うがいをする前に、腰をかがめた左側は、私の唇に自分の唇をくっつけた。
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