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着せ替え人間
第1章 着せ替え人間
 何枚も何枚も、同じような画像。
 スクロールするたびモニターに映るスタンプで隠れた私と妹の顔。
 もしかしたら画像と同じく、ママにとっての現実では私たちに顔などないのかも知れない。


 彼氏?
 靴下を履きながら首を捻る。
 そして、いっちゃんのスマホの中に保存されている、ブランドタグのついていない私のからだを思い出す。


 遊びにいってくるね。

 誰んちへ?何時まで?いつ帰るの?
 なんて。顔のある私はママにとってただの着せ替え人形だから、心配する必要はモニターの中だけで十分なのだろう。
 
 返答の代わりに、キーボードがカチャカチャ鳴っている。


「 でもちょっと年上みたいだから心配かも-まぁまだJSだから間違いなんて起きないよね!?•ू(ᵒ̴̶̷ωᵒ̴̶̷*•ू) ​ )੭ु⁾  」


 間違い?
 首を捻ってから床の上に脱ぎ捨てたままだったピンクのボーダーを拾い上げてそっとカバンに忍ばせ、玄関で靴を履く私を名残惜しそうに見つめる妹に手を振った。
 可哀想なほどちりぢりに痛んだ妹の金色の毛先に向けた視線は、気付いた時にはいっちゃんのスマホの中を埋め尽くす顔のない私の裸体へと変わっていた。 




 いつの間にかカーテンの外は暗闇になっていた。
 私は黙って大きな身体に寄り添い待っている。
 煙草が灰になるのを待っている。
 灰になったあとを期待するように、忠犬のように、待っている。
 その忠犬の髪を、肩を、腰を、いっちゃんが気まぐれに撫でる。
 そのもうかたいっぽの手で、いっちゃんはスマホを握っている。
 青白い光を放って暗闇に浮かぶ、顔のない、私の裸体。
 いっちゃんと繋がっている、私の、からだ。
 幼い子に遊ばれ気まぐれに投げ捨てられたはだかんぼの着せ替え人形のような、からだ。

 さっきまで撮影した画像を何度も見返していたいっちゃんが、短い着信音ののち、急に操作を始めた。
 指先は現金を生む。
 カバンに忍ばせ、のちにいっちゃんに差し出した、タグのついたままの派手な服。
 他者より多く新作を手に入れてブログで自慢したいだけのママの記憶には残っていない、服。
 それらはただ形を変えただけに過ぎない現金。
 いっちゃんの肺を汚すためだけにママに内緒で換金される、現金。


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