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着せ替え人間
第1章 着せ替え人間
 明かりの点いていない薄暗い室内。
 いっちゃんからスマホを受け取り、青白い光だけを頼りに、鞄の中から引っ張り出したものを絨毯の上で綺麗に畳んでビニール袋に入れて、茶封筒に入れて、マジックで宛名を書く。

「出品から5分で早期落札。落札額は9千円。定価が1万3千円だっけ?すっげえ赤字。でもマルボロが2カートン買える」

 ブルーライトがメガネのレンズを青く照らしている。
 ふうーと吐き出す煙。
 白いもやの向こうに毛布の乱れたベッドが見えた。

「ちょっと、こっちにかけないで。煙草の匂いがすると嫌がられるよ」

 いっちゃんは首を捻ってから素直にゴメンと言って灰皿で火を消した。
 そしてシャツの両袖を肩から落とす。
 緩めたままのベルトから、トランクスが頂点を主張するように張り出している。
 いっちゃんの太い眉毛と鼻筋、喉仏。
 スマホをテーブルの上に置いて、みっつめのコンドームを手に取った。

「まだ帰らなくていいの?」

 と、視線も合わせないまま私に問いかけながら。
 円形の壁掛け時計を見上げる。
 午後9時45分。

「いっちゃんこそ、親帰ってこないの?」
「帰ってくると思う?」

 見つめ合うと、いっちゃんが先に笑う。
 そして、私の唇にキスをした。
 
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