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初花
第2章 紅珊瑚
抱き上げて、いちど湯につれていき
今は 力無く横になっている龍の

なめらかな喉元を
人さし指のみで撫でてやる。


私は あの日、突き動かされるように
しろい喉に 喰らいついた。

十日経ったいま その肌に跡はない。



「数日は 痛んだであろう、済まなかった」


己の行いを詫びるなどと、慣れぬことをして
思わず 身体が熱くなる。


「膏薬で 癒えました」


疲れて眠いのか、目を開けぬまま
かすかに 微笑みのかたちになる唇…


血の気が失せていた唇には
微睡んだせいか薄く桃色の艶が戻っている。

無意識に 私に気を遣って
浮かべたであろう淡い笑みに 見惚れた。


見送りに立とうとする龍を
「そのままでよい」おしとどめて城へ戻る。




「殿。 お忘れです。」


枕元においた紅珊瑚の根付を 見つけて
起きあがり、 掌に載せて さしだしている。

…忘れてはいない。



「其方のように白い肌には、紅がよく似合う」


それだけしか言葉にできず
背を向けて、帰途についた。
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