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初花
第3章 玻璃
一昨日 抱いたばかりの 龍の姿が
参道に店が並ぶ 市にあった。

市の世話役が営む店のなかにいる
私には、 気がついていない。

風呂敷包みを提げた男に 寄り添い
はにかんだように笑いながら歩く手に ひとつ
風車が くるくるとまわっている。



あのように、笑うのか。



婀娜っぽい夜着でも
やわらかな単衣でもなく

艶やかな碧い衣を纏い
高く束ねて 歩くたび揺れる髪と、
額にすこしかかり 風になびく前髪。


日の光の下 紅葉に映える しろい貌は
私の知らぬ 無防備な微笑みだった。


隣を歩く あの男と 入れ替われたら。。
一瞬とはいえ、愚かな望みが胸をよぎった。





龍に会うため 廓に通うのでなく
私の手許に置きたい。

既に、その身は 他の男にふれられぬよう
それなりの 金子で 請けだしてある。

敷地のなかに 住まわせるため
急ぎ 作らせていた
離れが もうじき仕上がる。


「なにか、設えに 望みがあるか。」


「部屋にいても。…夜具の中にいても
いつも空が 見えるなら、嬉しいです。」


はじめは なにも要らないと言っていたが、
幾度も 尋ねるうちに
彼はそれだけを、ちいさな声で 望んだ。


食事時に 膳は運ばせるつもりだが
ちいさな竈も ひとつ。

閨には、とくべつに玻璃を埋めた窓がふたつ。

刀傷も癒すという出湯をひいた 湯殿。

ささやかながら 季節毎に彩ある庭。


迎えには 駕籠がゆく。
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