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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
 

『この世に存在する数々の問題は、
 その問題が発生したときと
 同じ考え方では解決できない――――。

 昔、そう言った物理学者がいたよ。
 お父さん、この言葉が好きでね、
 塾の子たちにも言ってる。
 非常にクリアで、小気味がいい。
 それこそが人生だと思うんだ。

 生きてれば、人は悩んだり苦しんだりする。
 そんなときどうしようかって考えるだろ?
 でも、
 そのときに持ってる知恵や経験だけでは、
 どうにもならないことが多いんだよ。
 だってそうじゃないか、
 持ち合わせた知恵で解決できるんなら、
 そもそもそれは問題じゃないんだから』

『じゃ、いまの私の悩みは解決しないわ。
 知恵もないし、できないことだもん。
 この先も見込みはないわ』

話しながら麻衣の声は尻すぼみになった。
父は、頭の上のハンカチをもう一度手桶にひたして広げ、墓碑の上にそっと載せた。
大きくうなずいて、麻衣に微笑みかけた。

『その通り。¨同じ考え方¨のままではね。
 でも、何のために時間があるんだい?
 麻衣はまだ若い。
 まだまだたくさん時間があるんだ。
 
 時間が解決する、なんて言うと、
 いまの麻衣には辛いかもしれないな。
 だけど、その言葉の意味は大きいよ。

 どんな大逆転劇も、
 同じ時間には起こらないんだ。
 そこには必ず時差がある。
 状況を変えるには多かれ少なかれ
 時間が必要なんだよ。
 それに時間は前にしか進まないんだ。
 お構いなしにね……』


 
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