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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
 
その、たったひとつの及びえないことによって、もし圭司とのあいだに綻びができたなら、私にその破れ目をつくろうすべはない。
いかなる手段を持ってあたっても、そのたったひとつのことに及ばない。
子猫に乳を与えるノウを、どれほど羨ましく思ったか。
一個の雌として、私はノウにも劣る。

圭司は私といる限り、子を持つ歓びを得られない。
こうして直樹を抱くように、ひざの上で指をくわえて眠る我が子を慈しむことはできない。
どこまでいこうと、この事実が変わることはない。

父を見ろ。
滝沢を見ろ。
伴侶亡きあとも私がいる、直樹がいるではないか。

愛しているから――――。
それだけを拠り所につなぎとめるのは、果たしてそれが愛だろうか。
私たちはいま倉庫で寄り合って生きているが、もし私に何かあったとしたら、ひとりぼっちの圭司は、人生の終盤に悔しい思いをするのではないか。
私を選んだ自分自身に、恨み言をつぶやくときがくるのではないか。
私は恨まれても仕方ないが、圭司に後悔させたくない。
もし圭司が悔やむようなことがあれば、私は懺悔してもしきれない。

圭司は私を選ぶことによって、いくつもの幸福や心の財産を放棄することになる。
あきらめなければならないのは、私のほうだ。
滝沢との関係を絶つべくここへ来たが、マイナスを抱える私は、圭司の人生からもおりるべきなのだ。

私が心を決めればいい。
たった、それだけのことだ……。

――――(体も心も、私という人間は厄介だなぁ)

夜空を見上げた麻衣のまぶたが涙でふくらんだ。
星も月もない漆(うるし)で塗ったような空が、麻衣の目にゆがんで見える。

『もう、慣れたと、思ってたんだけど、な。
 なんだか、ざんねん、だなぁ』

誰に言うでもなく、つぶやいた声が涙にうるむ。
暗闇に放った「ざんねん」という言葉の意味が、ことさら深く心に刺さった。


 
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