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キミといる場所
第1章 出逢い
長谷川のカフェは着々と工事が進んでいる。
以前の弁当屋のアットホームな雰囲気とは異なる、ダークなオーク材を使用したシックな店構えに、私はちょっとわくわくしていた。
あの若造、なかなかいいセンスしてるじゃん。

「さーて、帰るかな」

相田は子供の誕生日だと言って定時に帰っていき、他の面子もパラパラと6時過ぎには退社していった。
パソコンの電源を落とし、戸締まりをしてからふとカフェを覗くと、長谷川が入口を施錠しているところだった。
歩道に立ちキョロキョロしている。

タクシー探してんのかな?

駅まで徒歩だと20分ほどかかる。
住宅地を背負ったこの辺りで、流しのタクシーを捕まえようとしたら夜が明けてしまうだろう。

「あのー」

思いがけず声をかけていた。
キョトンとした長谷川に向かって通りを渡った。

「私、向かいの建築事務所の高瀬です。先日はご挨拶に来てくださったそうで」

「あ、長谷川と申します。工事中は何かとご迷惑をおかけしまして」

近くで見る長谷川の顔は、驚くほど整っていた。
これじゃ花穂ちゃんが浮かれまくるのは無理もないわ。

「あのぅ、もしかしてタクシーをお探しですか?だとしたら、この辺では捕まらないので…」

「え、あ、そうなんですか!うわー…」

「よかったら駅までお送りしますよ。」

自分でも思いがけない言葉が出て、驚いた。

「あ、いやでも…ご迷惑でしょう?」

「通り道ですからご遠慮なく」

私は鍵を振ってみせ、駐車場へ向かった。

「ご迷惑をおかけしてすみません」

長身を折るようにして座席に収まり、シートベルトをしながら長谷川は頭を下げた。

「ご自宅はどちらなんですか?」

「ふた駅先なんです。オープンしたら自転車で通おうかなぁ、と」

私と一緒じゃないの。

「なんだか自宅までご近所のようなので、近くまで行きますよ」

変な縁だなぁ、と私はおかしくなった。

「えええ?僕、郵便局の裏なんです。高瀬さんは?」

「私はその先のコンビニを入ったところです。」

「ええええー、なんという偶然!」

笑うと端整な顔が崩れて、途端に人懐っこさが覗く。
偶然と笑顔に、なんだか初対面の距離が縮まった気がした。

見知らぬ男性に声をかけることも、そんな風に思うことも私にとってはあり得ないことで、花穂ちゃんに感化されたのかな…と、むず痒くなった
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