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曖昧なままに
第13章 忌むべき過去(愛美の独白)
 その日を境にして、私は不登校になっていた。

 学校に行かなくなった理由を、お母さんは私に頻り訊ねる。けれど、私は何も言わなかった。別にいじめが酷くなったことを、お母さんのせいだと思ってた訳ではない。だけど――もしそうだと知れれば、きっととても哀しむことは目に見えていた。

 次第にお母さんの心配する顔を見るのが、憂鬱になってゆく私。顔を合わせるのを避ける為に、部屋に閉じこもる時間が増えていた。

 暫くするとお母さんの方も、徐々に私に干渉しなくなる。きっと仕事で、精一杯だったのだと思っていた。でも、それは少し違っていたみたい。お母さんの方にも、何か変化が生じていたらく……。その原因は、すぐにわかった。

 秋も深まろうとする、とある日――その人は初めて家を訪れている。

 夜中――男の人の声を耳にして、ふと目を覚ます私。部屋を出て廊下を忍び歩くと、襖の隙間からそっと居間を中を覗く。そこでは仕事から帰っていたお母さんと、見知らぬ男の人が愉しげにお酒を飲んでいた。

 誰なんだろう……? そう思いその人を見ていると、不意に襖がカタッと音を立てる。私は慌てて、部屋に逃げ込もうとした。だけど、その時に――。

「ねえ。キミが、愛美ちゃん――なのかな?」

「――!」

 居間から顔を出したその人は、私の背にそんな声をかけていた。足を止めた私は、恐る恐る振り向いてその人の顔を見る。

「お寿司があるんだ。一緒に食べよう」

「え……でも」

 私が戸惑っていると――

「ハハ、怖くないよ。だから、おじさんと――話をしないか」

 その人はそう言って、何とも屈託なく笑った。

「……はい」

 そう答えた私は、自然と笑顔を作くる。とても、久しぶりに。

 どうしてだろう……? 私はその人の顔を見て、とても温かいものを感じている。何処か懐かしいような、それでいて新鮮な――そんな印象を私は抱いていたのである。

「良かった。おじさんの名前は――柴崎。よろしくな」

「シバザキ……さん?」

 それが、私と柴崎さんの初めての接触となった。
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