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曖昧なままに
第14章 月並みな俺
 連休が明けた、その週末――。

「――でね。ずっとスルーしてたんだけど、とにかくしつこいの。ついに電話までしてきちゃってさー」

 奈央の部屋に来ている俺。彼女の話に合わせ時折、相槌を打つ。

「へえ……」

「流石にでんわっ、てわけにもいかないじゃない。アレでも一応は、会社の上司なんだし。それで仕方なく出たら『奈央ちゃん、俺、嫁と喧嘩しちゃってさ。プチ家出状態なんだ。よかったら今から会えない? 俺を慰めてくれよ』とか、甘えてくるの」

「ハハ……そっか」

「何、この人キモいわ……って感じなんだけど。無下に断るのも、後々面倒でしょ。だから『ごめんなさい。今、彼氏とラブラブしてます』って適当なこと言ったら『あ、そうなの』ってションボリしちゃって。ホント懲りないよねー。あの課長――」

「ああ、成程――痛っ!」

 そのタイミングで、頭がコツンと叩かれた。

「コラ! 聞いてなかったでしょ」

 奈央はそう言って、俺を睨みつける。

「すまない。ちょっと、ボーっとして」

「もう! この私が、どれだけ不毛な連休を過ごしていたのか。中崎さんには、その愚痴を聞く義務があるんだから」

 全くその通りだった。何処かに行こうと提案した奈央に対して、俺はそれを断っている。

 その時もそして連休が明けた今も、奈央は俺が何をしてたのか聞こうとはしていない。それは奈央なりの信頼の証であり、俺はそれに応えなければならないのだが……。

「わかった。今度はちゃんと聞くよ」

 俺がそう言って、向き直ると――

「いい。もう、話すの疲れちゃった」

 奈央はボスンと飛び込むように、俺に抱きつく。そして俺の耳元で、ドスの利いた低い声で呟いた。

「後はベッドで……その身体に聞かせてやる」

 それを聞いて、思わず吹き出す俺。それから、少し呆れて言う。

「奈央って、ホントにオヤジっぽいよな……」

「それは、色気がなくてすいませんね」

「いや、寧ろ多少控えてもらわないと、こっちの身がもたないかな」

「それって予防線? 今夜はしかっりと、相手してもらうんだから……」

 奈央はそう言うと、そのまま俺に唇を重ねた。

 徐々に熱くキスを交わしながら――

「……」

 ふと壁に掛かったカレンダーに視線を止める。

 来週の日曜――否、土曜日……か。それは愛美が示していた、タイムリミット。
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