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曖昧なままに
第15章 唯、興じて

「ふっ……くっ……」

 僅かながらの往復を可能にした愛美の壺の中を、俺は愚直なまでの必死さで貫き続けた。次第に快感さえ何処かに置き忘れると、麻痺する己の感覚の中で足掻き躍動する。

 それを受けた愛美も、自らの身体の変化を口にした。

「ああっ……ダメ……熱く……なって……」

 すると――何かを危惧するよう悲壮な顔を向けて、俺にこんなことを訴える。

「よ、止して……そんな激しく……いけないよ……柴崎さん!」

「何故、だ?」

 俺が訳を尋ねると、愛美は不安を顕わにして、こう答えた。

「だ、だって――お母さんに、見つかっちゃうの!」

「……!」

 愛美は未だ、混沌の迷宮をさ迷っている。

 俺との情交の中で、彼女は過去に退行して……。重なるその情景の中で、混迷しながらも自らの罪にその心を痛めて止まない。

「ねえ……大人しくして。そうすれば、ずっと一緒に……愛美の中に……居てほしいの」

「……」

 その心を歪んだ過去から解き放つには、どうすればいいのか。幾ら考えようとも、俺がその答えに辿り着くことは、無理なのだろう。しかし、そう実感しながらも……。

 俺は――自然と『そうすること』を、選んでゆく。

「愛美……大丈夫だよ」

「え……?」

 その時――俺は一度だけ。

 会ったことさえない、柴崎という男を――演じていた。


「愛美は少しだけ、いけない子だったのかもしれない。だけどさ。悪いのは大人――俺の方なんだよ」


「けれど……私……は…………!?」


「辛かったな……愛美。だから、もう……忘れてくれて……いいんだ」


「柴崎……さん」


 その刹那――。

 ぽろぽろ、と零れしその涙は――

 少女としての彼女と、現在の彼女とを繋げていたように――

 俺には――そう思えていた。

「……」

 そして、愛美は俺の顔を見つめ――そっと瞳を閉じる。

 俺は愛美に――静かに唇を重ねた。

 すると、そのキスの最中で――


 ……………………!


 ふっ――と何かが去り行くのを感じて、俺はそのキスを終える。

「愛美……俺がわかる?」

 顔を眺めて、そう訊くと――


「洋人……さん」


「ああ……そうだよ」


 彼女は俺の名を、呼んでくれていた。
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