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曖昧なままに
第15章 唯、興じて
 窓の外では――。

 ザアアッ――。

 いつの間にか、轟く激しい雷鳴は止み。その名残のような、静かな雨音が心地よく屋根を叩く。

 俺はその音に耳を傾けながら、柔らかさを取り戻した愛美の身体を抱いた。

 やがて、愛美は――

「ああ……洋人さん」

 自然と快楽に溺れて、その身を委ねてゆく――。

「……」

 その姿を認めながら、俺に訪れた新たな感情。

 否、それは常に心の大半を占め、固く閉ざしていた本心。

 それが溢れて出すのを、俺は既に制止できずにいたのだ。

 そして、俺が口にした言葉――


「愛美……ごめん」


 ――それは、懺悔であった。

「どうして……?」

 愛美にその訳を問われて、俺はその真意を吐露してゆく。

「俺は今――愛美を抱いている。だのに俺は君に――愛してるって、言ってあげることができないんだ」

「洋人……さん」

「だから、ごめん。本当に……すまない」

 その懺悔は――目の前の愛美にのみ、向けられたものではなかった。

 すると俯いた俺の顔に、愛美は伸ばした両手を携えて言う。

「もう……わかっています。それを望んだりはしません。洋人さん……私のこと……助けてくれて、ありがとう」

 全てを悟ったような――その優しい微笑み。

 愛美の初めての表情を見て、俺はぐっと込み上げるものを堪えられなかった。

「そ、そんな……お願いだから、そんな優しくしないでくれ。俺は間違いだらけで……だから、俺は……」

「……」

 俺の頬を伝う涙を、愛美の指がそっと拭ってくれる。

「だが、そんな俺だから――無様でも不器用でも、俺のやり方を、通させてほしい。最後まで、ちゃんと――」

「洋人さん……?」

 俺は弱い自分を振り払うようにして、真剣な顔を向けた。

「愛美――これは唯(ただ)のセックスに過ぎない。だが、だからこそ――君の自由を妨げたりもしない。それは、これから先も同じなんだ。きっと何時か――君は誰かの本当の愛に、応えることができる」

 本当に伝えたかった言葉では、なかったのかもしれない。だが俺に、もう迷いはなかった。

「だから今は――せめて興じてくれ。懸命に――感じてくれ。本能の赴くままに、自分自身を――解放してくれ!」

 そう必死に訴えた俺を見て――

「はい……」

 愛美は唯――コクリと頷いた。
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