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Dolls…
第22章 遠い街角
今ここでタクシーを飛び降りて椎葉さんの胸に戻ることも出来るけど、そんな事をして何になる?

また椎葉さんに拒絶されたらそれまで…。

私を助けようとしてくれた安藤さんも悪い。

それに、私が上京した理由は椎葉さんの人形のモデルをするためじゃなかったはず。





私は私の世界へ帰る。

そして、夢に向かってまた歩き出す。

明日からまた、自分の夢の実現に向かって歩き出すんだ。

だから…っ。






車のタイヤが足場の悪い砂利道を走り出す。

ジャリッという嫌な音を響かせながら車はゆっくり前進した。

窓から見える景色が動き出す。






「ったく…。最後ぐらい気の効いた挨拶でもすればいいのに…」


椎葉さん…っ。

椎葉さん…っ。


車の中から何度も何度も椎葉さんの名前を叫んだ。

振り返ることも、名前を叫ぶことも出来ずに、声にならない悲鳴で心が破けそうになりながら。

「ま、あいつは昔からあんな奴だったけど…」

窓から見える景色は真っ青な空と色鮮やかな木々の緑。

だけど、その景色がグニャリと歪んでいく。




「あ、ところで椿ちゃんさ━━━━━」











「うっ、ぐすっ…」


安藤さんの隣で大粒の涙を流しながら椎葉さんとの別れを噛み締めていた。

元の世界へ戻れて嬉しいはずなのに、心が痛い。

真っ二つに引き裂かれたみたいに痛くて、悲しくて…。

頭の中には椎葉さんとの思い出だけが駆け巡ってる。

辛いことや悲しいことばかりだと思ってたけど、そんな事ばかりじゃない。

辛いことや悲しいことばかりじゃなかった…。


支配される喜びも、繋がれる喜びも、全部椎葉さんが教えてくれた。

全部、椎葉さんが…。




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