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狐面の男に 愛されまして
第4章 無知な自分は 騙されまして
ふさふさの獣毛は焦げ茶色。
豆粒みたいに小さな耳、長い尻尾。
カワウソにそっくりのその生き物は、彼女を見ながら首を傾げている。
…あれが、声の主か。
一見すると、本当にカワウソのようにも思えるけれど…
(キミ ハ どこから きタの?)
カワウソはしゃべらない。
そして、その生き物の異様に大きな二つの眼は、何かを反射するようにぴかぴかと光っていた。
「……どこ?って」
そう聞かれても、なんて答えれば
「日本、だよ」
(ニホンー? ドコ?ドコ?)
「……」
陽気な声のカワウソ君は、何となく扱いに困る。
日本がどこかと聞かれても
彼女はまだここがどこかすら知らないのだから、説明できる筈がなかった。
(…じゃーネ、ナマエ おしえてヨ)
名前、か
それなら答えられる。
「サチよ」
(サチ?)
「…うん」
(サチ♪ フフ… サ、チ)
「……っ」
カワウソ君は嬉しそうに彼女の名前を繰り返した。まるで歌でも唄うように、時には抑揚をつけて。
広いお風呂の端と端。
けっこう距離があるに関わらず、カワウソ君の声は聞き取りやすい。