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君はカノジョ
第3章 彼女の声
その声を聞いた時、それが何をしている声なのか、を頭で理解する前にピタリと体が止まった。不思議だけど、頭より体が先に悟っていたんだと思う。これは、セックスしてるやつらの声だと。
仕事が終わったあとの高揚感からか、俺は驚きながらも好奇心を押さえられなかった。そのまま踵を返して帰ることもできたのに、そうするべきだったのに、俺の足は勝手にドアの方へ近づいて行った。もちろん音をたてないように忍び足で。

おいおい誰だよ、こんなところで。でもまぁ誰もいない会社で…とか割とやってみたいシチュエーションではあるよな、とか思いつつ進む。
と、ふいに大きくなった女性の声が聞こえて俺はまた足を止めた。

目を見開く。
息が詰まった。
甘い声。
俺が、よく知っている声。
鈴を鳴らすような、それでいてしっとり濡れたような…。
俺の好きな、金原さんの声だった。

どっ、どっ、と心臓が鳴る。急に手に汗がにじんでくる。
声は続いている。男の荒い息遣いと、金原さんがふいに上げる高い声、呻くように響く低い声。
ドアはちゃんと閉じていて中は見えない。見たくは…ない。

けれど声が途切れて会話のようなものが聞こえてきて、俺はさらにドアに近づく。相手が誰なのか知りたい。いや、知りたくない、いや、でも…。

ドアのすぐ近くまで来た。俺は全身が耳になったみたいになってそこに立っていた。
最初に意味がある言葉として聞こえてきたのは、意外にも、俺の名前だった。
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