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そして、花開く
第7章 ~ 6 ~
秋はいわゆるシーズンオフ状態になるが、閑古鳥が泣いても営業は続けなければならない訳で。
冬の御歳暮商戦が始まるまで、何とか客足を途絶えさせないようにしなければならない。
『ハロウィン?金婚式?七五三?ちょっと遠い。今はまだ夏、今一つピンと来ないな』
勇介と聡が出した企画書を読み、夕方時間通りに会社に顔を出した葉嶋が、爪で弾いて机に放る。
ピクリと眉を動かした聡は無言のまま、さっきから言いたい放題の葉嶋を見詰めた。
とは言え、弱いというのは企画書を書いている本人達にも自覚はある。
毎年、この時期は頭を悩ませるのだ。
『とりあえず、今週中に方向性を決める事、だな。以上』
重苦しい空気が葉嶋の一言で解かれる。
ちょうど閉店の時間になったので、閉店作業と掃除をして、美空と由紀恵と葉嶋以外の社員が店を後にした。
原付バイクで通勤している愛花が、頭を下げて去っていく。
聡は勇介にまたもや飲みに誘われたものの、そんな気分にもなれず断り、勇介と別れた。
店の前を通って駅の方へ身体を向ける。
チラリと、大樹の働く美容室を見たが、いつもなら一発で見付ける事の出来る大樹が見えなかった。
毎日のように来ていたメールは、一昨日から来ていない。
チリチリと胸の辺りが焼けるような、そんな感覚に陥る。
自分からメールを送りたくても、自分のメールが邪魔をしそうな気がして送れずにいた。
『はぁ…帰ろ』
小さく呟いて、一歩踏み出す。
昼間の熱を含んだ風が頬を撫で、聡は汗を拭った。