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そして、花開く
第6章 ~ 5 ~
『ありがとうございます、俺も大樹さんが好きですよ。いつも迷惑をフォローしてもらって、感謝してます。あ、そうだ』
思い出して、後ろを振り返る。
『大樹さんに教えてもらった通りに、育てたらペチュニア咲いたんですよ。見てくれますか?』
窓に近付き開ける。
サァッと夜の涼しい風が、聡の頬を撫でていった。
恥ずかしさを誤魔化すために、大樹の言葉を待たずに話を続ける。
ベランダには満開のペチュニアが咲いていた。
ちゃんと見てもらおうと、台の上から下に下ろし、よく見えるよう窓の前に持っては来たが、大樹は聡の後をついてきてはおらず、椅子に腰掛けてこちらを見ているだけだった。
『大樹さん?』
妙な感じがして、部屋の中に戻る。
大樹の元に近づく前に、彼は立ち上がると、聡を通り過ぎペチュニアの前に屈み込んだ。
『大樹さん?あの…大丈夫ですか』
後を追うと、大樹が立ち上がる。
何も言わず踵を返し、キッチンの方へと歩いて行った。
『悪い、ちょっと飲みすぎた。帰るわ』
『え、ちょっ』
『ペチュニア、うまくいって良かった。また何かあったら連絡してこい、後これ』
大樹がバッグの中から本を取り出す。
慌てて受け取りに近付いたが、大樹は小説をカウンターに置き、見送りはいらないと言い置いて、リビングを出ていってしまった。
『酔ったって顔……してなかったのに』
酔った、というより何故か哀しそうな笑みを浮かべていた。
気安く俺も好き、等と言ったから、いけなかったのか。
そもそも料理を作らせたのがいけなかったんだろうか。
来るな、と言われれば追い掛ける事が出来ない。
待ってと声を掛ける事すら、聡には出来なかった。
子供の頃の、あの日と同様に。
玄関の閉まる音を聞く。
閉じられたリビングのドアを見詰めながら、聡はただただ立ち尽くしていた。