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恋花火
第11章 HERO
終電なので、車内はすいている。


席に座ると、ハーッと自然と息を吐いた。


今日そういえばタケル学校いたっけ?


いつもは休み時間や部活中、辛くなるほどタケルの姿を目で追ってしまっていたのに


今日はそれをしなかった。


なぜなら私は、新しいヒーローのことを考えてしまっていたから。


「寝んなー」

「ぎゃーーー!?」


その"ヒーロー"が、急に目の前に現れて


思わず叫んでしまった。


「うそうそ、寝てていいよ。菜月ちゃんの降りる駅で起こしてあげるから。」

「私の降りる駅知ってるんですか!?」

「そりゃあね。ずっと同じ電車だから覚えてるよ。」


聞けば、陸先輩はこの電車の始発駅から乗るのだそう。


全く気付かなかった自分にも驚く。


陸先輩の言うとおり、タケルはずっとガードしてくれていた。


痴漢に遭ってからというより、その前からずっと。


"おまえチビだからキケン"


そう言って、ラッシュの人混みからも守ってくれていたから…


…せっかくいい感じに気持ちが上がっていたのに、また下がってきてしまった…


そんな私に気付いたらしい陸先輩がまた、優しい笑顔を向けてくれる。


この人実は癒し系?陸先輩の笑顔を見ながら、そんな事を思った。


「お化け屋敷の準備したあと、一人で帰宅して怖くないの?」


ククッと笑いながら、今度は意地悪な笑顔が飛び出す。


「…今まではなんとも思ってなかったのに、たった今から怖くなりました…」

「だろ?怖いよな。」

「もー、気づいちゃったら怖くなるじゃないですか」

「大丈夫だよ。俺菜月ちゃんちまで送るから」

「へー…え!?」

「だから安心して」


聞けば、陸先輩の家は遠いので、文化祭が終わるまでは親戚の家から通うそうだ。


その親戚というのが、私の家のご近所さん。


「世間は狭いですねぇ」

「ねー、狭いよね。」


またまた新発見。


陸先輩は口調がなんか可愛いということ。


その日は本当に家まで送ってくれた。


タケルじゃない男の人と歩くのは中二の時以来で…


なんだかものすごく、ドキドキした。
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